睡眠の話③「光と睡眠」
ホモサピエンスの歴史は発掘された石器から30万年と推定されています。30万年のうち29万年の狩猟採集生活で、最も必要としたのは視力です。
人は嗅覚を晶腔の天井奥深くにしまい込み 、鼻を犠牲にしてまで眼球を発達させました。髑髏を見ると、眼高が不気味なほど大きいことが分かります。眼の奥には厚さ0.5mmもない網膜に光に反応する視細胞が片目だけで1憶個以上あります。
明るい場所で色を識別する錐体細胞だけでなく、弱い光、薄暗がりでも光を感じる桿体細胞を発達させ、暗順応を可能にし、薄暮や月明りの中での狩猟を可能にしたのです。食料を増やすことにより、集団生活は容易となりました 。眼球にスペースを譲った鼻の貢献度は偉大であったわけです。
時は流れ、人は増え続け、より多くの食料を必要とするようになり、農耕生活に変わりました。1879年エジソンが電球を発明してわずか145年の時間は、30万年の長い歴史からすると、ほんの瞬間に値する時間です。
突如人は太陽が沈んだ後もこうこうと明るい照明を手に入れたのです。驚いたのは、薄暗さのなかに光を求めてきた目です 。
皆さん突然目の前でフラッシュをたかれて喜ぶ人はいるでしょうか。目は突然の過剰な光に驚き、疲れています。
両目の視神経は脳に入って視交叉と呼ぶ交差点を作り、ここから後頭葉視中枢に視神経を送っています。実は、この視交叉の所に夜と朝を識別する時計遺伝子の入った体内時計があるのです 。この時計は30万年間、午後8時は夜だよ、午前6時は朝だよと時を刻んできました。
私たちの生活はどうでしょう。過剰な光を浴びる時計遺伝子の驚きと混乱は、隣接する自律神経の中枢にその混乱を波及させます。結果として生じた自律神経の不調は、疲労けん怠、めまい、頭痛、耳嗚り、動悸、便秘下痢、頻尿、生理不順、発汗から、あらゆる種類の睡眠障害をもたらしました 。早く寝ることの大切さ、朝は6時に起きることの大切さは、時計遺伝子があなたに突き付けた警告書と要望書なのです。